国宝消滅

デービッド・アトキンソン著「国宝消滅」(東洋経済)が面白かった。
私は不勉強で氏のことを初めて知ったが、テレビにもちょくちょく出ている有名人らしい。


著者は小西美術工芸社という文化財修復専門の塗装会社の社長である。文化財の専門家である。しかしその道に入る前はゴールドマンサックスの金融アナリストであった。金融の世界でたっぷりお金を稼いでのんびり京都で余生を過ごす予定のところを、その会社の経営を任されてしまった。社長の年俸はゴールドマン時代の8日分の給与にすぎない、という。どんだけ高給? 彼は日本の文化財に対する発言権を確保するために文化財関連のトップ企業である小西美術工芸の社長を引き受けた。

彼はイギリス人であるが日本文化をこよなく愛し、その消滅を案じていて各所で発言している。もとが数字を扱う専門家だけに文化財の価値や保全、修復に関し言うことにすべて説得力がある。早い話、日本は近年「観光立国」を喧伝しているが、こと文化財の扱いに関しては後進国レベル。文化財保護に関する国家予算も欧米先進国に比べケタが少ないどころか韓国よりもずっと少ない。貧困な文化財行政が刻一刻と貴重な文化遺産を消滅に追いやっている・・・・・。

飫肥の武家屋敷、伊東伝左衛門家は200年ほど経っているが荒れ放題でほとんどボロボロ。遠来の観光客にお見せするのが気の毒なくらい。ただし入場料無料。というかこれで金を取るのはおこがましい。
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P6213076 posted by (C)オトジマ

かといって、近所の小村寿太郎生家は修復のし過ぎなんだか修復ポリシーの欠如なんだか、安物の映画のセットみたいに全く古色がなくてガッカリする。古建築修復のマニュアルなんかないのかな?ディズニーシーに学ぶべき。これも無料ではあるが小さい家なのでしみじみ時間をかけて見るほどはない。
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P6213129 posted by (C)オトジマ

高齢化人口減の日本が今後、生きていくためには観光しかない。それも必ず儲けることが必須である。。外国人がよりお金を落とす可能性のある文化鑑賞・体験型の観光が求められ、そのためには観光客がより時間をかけて文化財を楽しめるような仕掛けが必要。現状のように順路の矢印に沿って足早に駆け回るのではあっという間に見てしまう。文化財自体も埃だらけの虫食いだらけ、ワビ・サビを通り過ぎて廃墟寸前の状態ではあまりに失礼。まずは予算をつけて補修の頻度を増さねばならない。本来は古来より日本の寺社は伊勢神宮の20年ごとの式年遷宮で見られるように常に改築・補修をしてきた。それが現在の文化財保護行政では補修は30年に一度、根本修理は150年に一度くらいの予算しかつかないそうだ。それでは木造建築は老朽化に追い付かないという・・・・・・・。 

そもそも今後の日本にとって国家の文化財への投資は最も効率のいい投資だという。過去の何兆円もの箱物への公共投資が今となっては老朽化で維持費にも苦しんでいるし。バブル期に全国自治体が競って作ったリゾート施設や観光施設が廃虚化しているのに1000年前の奈良京都の寺社はいよいよ大量の観光客を集めている。

例えば熊本城は昭和35年に1億8000万円で大小天守や塀などを復元した。年間300万人が500円払ってるとすると年に15億円の収入だからとっくに元はとって大儲けである。近年は本丸御殿を54億円で復元しているがこれもじきに元が取れる。入場料だけでなく町へ観光客の落とすお金もあるから文化財への投資はきわめて高効率だ。このほどの熊本城の地震の被害に対し日本財団が補修費30億円を寄付をするという。国家の年間の文化財修復予算75億円と比べて半分近い。日本財団がエライんだか国がアホウなんだか。もとは競艇のテラ銭ではあるが生きた使いかただ。

20年前、娘が小学校の修学旅行で熊本城に行った時。とうぶんこの姿は見れない。生きてる間に見れるのかな?
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img005 posted by (C)オトジマ

はっとしたのが拝観料の問題。私などは神社仏閣が拝観料を取るのは宗教施設にあるまじき堕落、と思っていたがそれは全くの誤りらしい。日本の文化財の展示レベルの貧困と劣化は安い拝観料に原因があるらしい。とにかく安すぎる、という。ディズニーランドが8000円、横浜の水族館八景島シーパラダイスが5000円。大分の水族館「うみたまご」が2200円でだれも文句を言わないのに二条城が600円、東大寺が500円とはなにごと、という。ラーメンより安い。ヨーロッパでは一般に施設入場料は高いのが当然らしい。

以下の表、神社は一般に拝観料を取らないが、付属の宝物殿や美術館を含めての料金らしい。ちなみに東大寺の大仏殿は500円だった。
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外国の有名な施設・大規模なところばかりだから日本の小さな寺社と比べて比較するのもどうかな、という気がするが法隆寺に比べると清水寺や知恩院など安い感はするし、規模を考えれば東大寺はバーゲンだ。しかし普通の観光客は京都や奈良に行くと数か所の寺を回るので積み重ねると結構な出費となる。去年、奈良の当麻寺に行った時には境内にいくつもの坊や庭があって個別に入場料をとるので結局一人2000円くらいになった。かりに奈良で一日に東大寺と隣接する依水園、法隆寺、薬師寺、当麻寺をまわると一人5000円をゆうに越してしまうのである。お金に関しては貧富により感じ方はさまざまだから一概に言えないが私にとっては決して安くはない。表ではストーンヘンジがおよそ1500円。興味ない人にとっては石が並んでいるだけ。それなら西都原古墳群が1000円くらい取ってもいいことになる。ちなみにエジプトのピラミッドは内部に入らなければ1200円ほど。

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P6069269 posted by (C)オトジマ

アトキンソン氏は安い入場料がお粗末な展示やおざなりな管理の原因だという。さらには現行の入場料では施設の維持がやっとで老朽化に対する大規模な修理に対する準備ができない。入場料を高くしてそれに見合うサービスを提供する、というやり方に変えなければ文化財は一層早く消滅に向かうという。そもそもヨーロッパから数十万円をかけて日本まで来た観光客はヨーロッパの高い入場料に慣れているし、数百円の差なんて気にしない、という。また、安い入場料が過剰な入場者を招き、文化財の消耗を招く。高くして本当に見たい人を選別する必要がある。修学旅行など負担力の低い所には別の料金体系を取ればよい。・・・・・・

経済と文化財の両方の専門家、さらに日本と欧米の両方の観点を持つアトキンソン氏ならではの卓見に富んだ書である。






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トトロのとなり

Author:トトロのとなり
現在トトロのとなりの門川町に住む。
日豊地域での見聞を中心に徒然を記す。
お金がないので遠くには行けない。
お金がないのでグルメ記事はなし。

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