ドーキンス 「祖先の物語」

かねて読みたかった「祖先の物語」の古本が手頃な価格で出ていたので上巻だけ買った。新本はないようである。大手の小学館なので重版するか、文庫化するかして欲しい。定価だと上下巻で6400円もして、私などがヒマツブシに読むために気軽に買うような価格ではなく、かなりコアな読者層を相手にした出版。しかし英語版のペーパーバックだと1500円ほどしかしないので英語圏では広範な人に気軽に読まれている本のようだ。かといって私の読解力では英語版で読むのはかなりの覚悟が必要だ。



ドーキンスが生物の進化についての全通史的に書いたもの。すでにいろいろな人が進化の通史を書いているので、ドーキンスは彼ならではの面白い手法を使っている。
普通の通史なら地球の誕生から始まるところであるが、これを現在から過去に向かって書き進める。太古、海の中で発生した単純な生命から現在の膨大な数に枝分かれしているあらゆる生物の系統樹を先端から根元に向かって辿る旅である。

ドーキンスはこれを巡礼と呼ぶ。我々の巡礼の旅に途中に近縁から順に次々と他の種の生物が加わってくる。現生人類から遡っていくと500万年くらい前に猿人はチンパンジーの祖先と合流する。時間を遡るにつれゴリラやオランウータン、その他の霊長類と合流していく。さらには他のほ乳類のさまざまな目と合流していく。上巻では3億4000万年前に我々の祖先が両生類と合流するところまでである。

この本の面白いところは、巡礼に合流してくる様々な種について、「ビーバーの物語」「アルマジロの物語」というふうにそれぞれの動物の進化上の特徴、エピソードがちりばめられていて、細切れに読んでもかまわない構成になっているところ。私は特に動物が好きというわけでもないが大変面白く読めた。彼の代表作「利己的な遺伝子」など理論的な本はとても難しくて寝床で読むとすぐに眠気を催して好都合といえばいえるのであるが、「祖先の物語」は面白くて眠くならない。ドーキンスらしい博覧強記で初めて聞く話がたくさんある。

興味を引かれたドーキンスのアイデアをひとつ。

ほ乳類は一般に毛がある。毛があるのがオリジナルで、後に環境適応の中で毛を失った例が、クジラ、ゾウ、カバ、ジュゴンなど。そして人間である。人間の属する霊長類で毛がないのはヒトだけであるから、ヒトに毛がないのはよほどの訳がありそうだ。

水中生活に適応したクジラ、ジュゴン、カバなどに毛がないのは理解できる。熱帯のゾウは体積が大きいので体温保持のための毛が必要なくなった。寒冷地のマンモスには長い毛がある。ヒトに毛がないのは汗をかいて体温調節するため、とかいう説が言われてきたが、ごく近縁のチンパンジーには毛があるし、馬は毛があっても大汗をかくので説得力がない。

10年ほど前にカール・ジンマーの「水辺で起きた大進化」を読んで「ナルホド」とヒザを打った記憶がある。彼女は猿人のあるグループが食料採集のために水辺で暮らしているうちに、水中生活に適応するように毛を失った、と述べている。水中生活の痕跡として指と指の間には水かきの痕跡がある、と言う。ソウルオリンピックで金メダルを取った鈴木大地が「ボクには水かきがあります」といって指と指の間の膜を見せていた記憶がある。確かに常人より広かった。

頭髪が残ったのは猿人がいたアフリカ熱帯の日射を防ぐため。人間の毛はほっとけば腰近くまで伸びるから昔の蓑笠みたいな役割をした。あとの二ヶ所の毛は性フェロモン、つまりアポクリン腺の臭いを蓄えるために残った。かつての人類には魅惑的だったワキの臭いは現在では逆フェロモン化して、臭いを消すために8X4が必要になっている。

ともかくそれ以来私は体毛に関し、他に説得力のある話を聞かなかったのでジンマーの説をなんとなく奉じてきた。

ドーキンスは「クジャクの物語」の中で全く別の説を唱えている。いうまでもなくオスのクジャクの巨大でケバケバしい尾羽は実用性はなく、メスの気を引くためにある。そういう例は動物界には無数にある。それが霊長類にもあったって不思議はない。

ある時、ある猿人の群れで体毛の少ないメスが現れ、オスたちはそんなメスを好んだ。毛の少ないメスは繁殖の機会を多く得る。たしかに手触りは毛がないほうがスベスベして気持ちいいかもしれないな。私だって私より毛深い女性はどうもいただけない。



いったんそういう連鎖ができるとその方向に雪崩を打って進化が進む。メスは争って体毛が少なくなるように進化する。毛の少ないメスから生まれるオスもそれに引きずられ、最終的には現在のようになったという。現在世界中のどの人種でも女性は必ず男性よりは体毛が少ないそうだ。そういえば現在でも女子は脱毛や毛剃りに男性よりはるかに熱心であるのはそんな背景があったのか。

デスモンド・モリスの「裸のサル」は毛のない特殊な霊長類である人間について考察した名著で世界的ベストセラーとなった。すいぶん昔にこの本を読んで何枚も目からウロコが落ちたものだ。
このたび久しぶりに目を通してみると人類が毛を失った理由についてモリスはいくつもの仮説をあげているが、彼はすでに1969年時点で水中生活説、性的アピール説両方とも検討しているのでその説は特に目新しい説ではなかったのかもしれない。


※ドーキンスに関しては以前のエントリがあります。

創造説との戦い---グールドとドーキンス

宗教との戦い---ドーキンス--その2 ラプチャー

宗教との戦い---ドーキンス--その4 煉獄

宗教との戦い---ドーキンス--その5 ブライト



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Author:トトロのとなり
現在トトロのとなりの門川町に住む。
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