天地明察

「天地明察」著者 冲方 丁 (うぶかた とう)

「天地明察」は映画化され9月公開。オフィシャルサイトを見るとなかなか面白そうである。2010年の本屋大賞を受賞しているベストセラーである。ふだんはベストセラーはあまり読まないのであるが、暦学に惹かれて読んでみた。


江戸時代前期の天文暦学者、囲碁棋士であった渋川春海の改暦に取り組んだ人生を描く。渋川についてはウィキペディアに功績と略歴が掲載されているのでそれを読むと、ほぼこの本の粗筋をたどることができるので読むヒマのない方はウィキで済ませることができる。


江戸時代の数学をテーマにした各種の本や小説はいくつか読んだことがあるが、暦関連は全然知らなかったので、興味深く読めた。昔の暦法は太陰暦である。地球の公転周期を一年、月の公転周期を一月とすると両者の日数はきれいな整数比にはならないからカレンダー作成にはややこしい計算が必要になる。日本では平安期以来、先進国である中国大陸から宣明暦を導入して使っていたのであるが、長い年月のうちに誤差が大きくなり、さらには中国と日本との経度差も勘案する必要があることがわかり、改暦の必要が生じてきた。

なにせ400年前のことであるから、世の中、合理性だけで物事が進む時代ではない。渋川春海は、わけのわからん幕府や朝廷の間で翻弄されながら人生をかけて貞享暦を完成し、改暦を実現した。この本ではその経緯をヒロイン「えん」を始めとした渋川春海の周囲の様々な人物とのかかわりを中心に描く。人間関係を描けば心理描写が多くなり、私にはかなりまどろっこしく感じられた。暦学や算学ばかりで話しを進めると話が膨らまないからだろう。


小説として暦法への着目はなかなか面白い。素人には暦法なんてなんのことやらわからないのであるから、昔の暦法の仕組みに詳しく立ち入ったところで、渋川春海の工夫や苦労を描写して欲しいところであるが、私にはそこらがやや物足りない。司馬遼太郎式の詳しいウンチクを聞きたかったものだ。

宣明暦の不都合の証明に、日食・月食の予想の間違いが利用される。春海がおかす決定的なミスとして、春海が宣明暦に変えて推す、より近代的な授時暦が、ほんのわずかな日食の予想をはずす場面がある。
今年5月の金環日食では、ほんの数百メートルの観測場所の違いで完全な金環になるかならないかの差があったらしいから、中国で作られた授時暦が北京と2000kmも離れた江戸での観測と食い違うのにさして不思議はない。それに思いが至らなかった春海らの日本の学者たちもずいぶん迂闊だな、と気になった。今年の金環日食騒ぎの後で冲方丁がこの本を書いていたなら、そこらの既述やストーリー展開に変化があったかもしれない。


ともかく、春海はその失敗を機に日本に合った大和暦(貞享暦)の完成に至るのである。という結末なのだが、読者は結局、最後まで天文の話ばかりで、暦法のなんたるかはよくわからないままに放置されるのである。著者がそんなもの周知のことだと考えているのかもしれない。

主人公春海の本職は碁打ちであるが、算学をたしなむ中で天文学や暦学にのめりこむ。江戸時代の算学では欠かせない神社奉納の算額が出てくる。思わず解いてみたくなる出題である。解いてみたら、二次方程式を使わず三平方の定理と相似比だけで解けた。現在なら優秀な中学生でも解ける問題であるが、400年近く前には難問だったのかもしれない。

下:「天地明察」中に現れる算額。斜辺の長さは三平方の定理より15寸と当初から作中で示される。いろんなブログで解法が示されているようだが、自分で解かなきゃ面白くない。


私の解き方はコチラ
















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トトロのとなり

Author:トトロのとなり
現在トトロのとなりの門川町に住む。
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