赤猫異聞

入梅で雨の日々。さらにいろいろ身辺雑事が多く、特に記すほどのこともない日々である。

前回記した浅田次郎の「一路」につづき、同じ著者の「赤猫異聞」を読んだ。何の予備知識もないが単にタイトルが面白そうだから読んだだけ。浅田は話作りのうまさには定評があるのでどれを読んでもだいたいは面白いはず。

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P6028076 posted by (C)オトジマ

タイトルの赤猫とは全然ネコのことではない。江戸名物の大火の折、収監中の囚人を一時的に解き放つことの隠語である。
明治維新、年号が明治に改まった頃、まだ奥州や蝦夷では旧幕軍と官軍の戦争が続いており、江戸は幕府支配から新政府支配への過渡期。江戸時代を通じて小伝馬町に置かれた牢獄が舞台。ここを差配するのは幕府以来の牢役人達である。折りしもの大火で天保以来の「解き放ち」が行われる。それを「赤猫」と称した。火事が牢獄に類焼して混乱が起こるのを防ぐために、いったん400名の囚人は解放されるが、鎮火後には自主的に速やかに戻らねばならない。物語はその囚人達の中の3人の重罪人を巡る彼らの人生模様と転変する時代、解き放ちの3日間のミステリアスな出来事を描く。時代設定は「一路」から10年も経っていないが、世相は大きく変わってしまっている。

物語は事件から7年後に、牢役人の二人と重罪人3人(牢名主である博徒、夜鷹の元締めである女、旗本くずれの剣客)の回想として語られる。ということは地の文は全くなく、会話も極力少なく、ほとんどは当事者の語り、であるが、例によってメチャメチャ面白い。ここでも浅田の文体の巧みさにうならされる。ストーリーの面白さだけでなく、文体が心地よいと、読書の醍醐味は倍増する。江戸から明治の移行期の世相も興味深い。読んで損はない小説である。

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P6028077 posted by (C)オトジマ

たまたま安部龍太郎の「開陽丸、北へ」も同時に読んだのであるが、これも全く同じ時代背景である戊辰戦争から函館戦争にかけて。安部の文体は簡潔で話の展開にだけ注意を注げるようになっている。この物語の登場人物たちは榎本武揚ら旧幕臣なのであるが、彼ら海軍軍人の会話はほとんど「江戸時代」を感じさせない近代的なものである。安部がそれなりに時代考証をしているなら、幕末の幕府海軍内の用語・術語、言い回しはすでに帝国海軍並になっていたのだろうか。同じ1868年の出来事を描きながら、浅田の文からは浮世絵とか白黒写真が連想され、安部の文からはカラー写真が連想されるくらい時代の印象が異なる。もちろん、いずれが良いという意味ではない。









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