酔いどれ小藤次留書



主人公の赤目小藤次は豊後森藩の下士である。「居眠り磐音」の豊後関前藩は架空の藩であるが、豊後森藩は実在した。藩主は久留島氏で、物語の中に出てくる第8代藩主久留島通嘉(みちひろ)は実在する。森藩のあった森は、現在玖珠町となっている。久大線森駅はかつては大きな機関区があり廃墟となった扇形庫が名所となっている。久留島氏はわずか12,500石の小名で城主格でなかったため、城を持たなかった。現在でも森に残る久留島陣屋は小さいが立派な石垣があってほとんど城と呼んでさしつかえないという。久留島陣屋の詳細は多数の写真があるコチラのサイトで。



「酔いどれ小藤次留書」第1話「御鑓(おやり)拝借」は物語の発端である。この巻では久留島氏が城を持たなかったことが物語の重要な鍵となっている。江戸城中で西国の諸侯、森藩久留島、赤穂藩森、丸亀藩京極、肥前小城藩鍋島、臼杵藩稲葉の各大名が同席したおり、稲葉雍通(てるみち)は久留島通嘉が城を持たぬことを愚弄し、他の3人も同調した。久留島通嘉はその恥辱を忍んだが、ある機会に本来目通りかなわぬはずの最末端下士・厩番の赤目小藤次にふと洩らす。後日、小藤次は離藩し秘かに藩主の無念を雪ぐべくたった一人で四藩を敵に回し報復を画する・・・・

臼杵藩稲葉氏屋敷。小説中の登場人物稲葉雍通は実在の藩主である。小説中では悪役を演じる。
佐伯 稲葉氏屋敷
佐伯 稲葉氏屋敷 posted by (C)オトジマ

NHK正月ドラマ「酔いどれ小藤次・御鑓拝借」の一場面


この小説もまた文句なしに面白い。私には「居眠り磐音」よりずっと面白かった。磐音はNHKドラマでは山本耕史が演じたのでどうしてもあのスマートなイケメンのイメージがあるが、小藤次は竹中直人が演じている。物語中では、短躯・醜男・高齢であるが、剣の腕は例によって超人的であり胸のすく活躍をするので男性読者にはなかなか共感できるキャラクターである。竹中直人は身長がもっと低ければ適役である。しかし、小藤次は左利きだったのかな?



実は小藤次は代々、藩の江戸屋敷詰めの厩番であり、江戸の生まれで故国の豊後森に行ったことがなく、第1話「御鑓拝借」では豊後はまったく出てこず、物語は江戸から東海道箱根の間で展開する。豊後に興味を引かれて読み始めたがやや残念。しかし小藤次は一度豊後森を訪ねることを期しているので、その後の展開で森が出てくるのかもしれない。いずれにせよ、その後も延々と続く物語は「居眠り磐音」や佐伯の他のシリーズ物と同様に江戸を中心に展開するようだ。



「酔いどれ小藤次留書・御鑓拝借」は西国赤穂・丸亀・小城・臼杵・森の5藩がからんでいる。そのうち臼杵・森は佐伯好みの豊後国。いずれも現在でも地方の小都市だから昔はなおさら田舎だっただろう。赤穂は小藩とは言え忠臣蔵の舞台だから知らぬ者はいないが、他は全国的知名度はあやしい。しかし、物語中では登場人物たちは公知の地名としてそれを語る。「それどこ?」と言う人物はいない。学校教育やマスコミが普及し、国民の教育水準が江戸時代と比較にならないほど高い現在でも、東京の街角で「小城」や「臼杵」、ましてや「森」を知っているかアンケートを取ったら悲惨な結果になるだろう。まぁ、物語だからそんなもんだろう、とも考えられるが、意外と江戸時代の人々の地理的教養は高かったのかもしれない。

下:武鑑の加賀前田家のページ   一ツ橋大学ライブラリーより


江戸時代を通じ、「武鑑」は一貫してベストセラー本だったという。大名をはじめとした武家の領地・知行高・家紋・家系などが記された紳士録である。身分制社会では何につけて個人の能力よりも先祖伝来の知行高がそのまま身分の尺度となる。交際や商売には前もって相手の諸元を知っておく必要があるから武鑑は武家のみならず、商人にも必需品であった。そんな中でおのずと人々は国名や藩名、石高を諳んじるようになっていたのではないか。一般の寺子屋でも手習いのテーマに「国尽くし」という全国の地名を覚える課題は定番だったらしい。今の中学生が47都道府県を覚えるのに手こずるのに、昔の子供は70ばかりある旧国名を覚えていたのだ。ともかく地理好きの私は、物語に地名がたくさん出てくるとそれだけでも楽しいのである。

6月21日放送の一場面。庭師に扮した小藤次が悪を懲らしめる。


NHKドラマ版では藩名はすべて架空のものであった。森藩は九重藩となっている。確かに森よりも九重の方が大方の人には場所がわかりやすくはあるが、荒唐無稽な物語をなんとか支えていたリアリティは雲散霧消してしまう。それでなくともドラマではセット撮影でこなすためや、展開を速くするためにストーリーは大幅に改変されているし、セットや衣装は小奇麗だし殺陣では血は飛び散らないし、小説の醍醐味はなくなっている。原作では小藤次の日常生活のディティールがこまごまと描写されて生活感のリアリティを出している。これが殺陣場面の連続だったらいかにも単調になってしまう。NHKドラマで興味を持たれた方は本の方でもお読みになるとまた楽しめるに違いない。













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