歌舞伎絵巻シリーズ

残念ながら私は歌舞伎・浄瑠璃に全く縁がない。長年の田舎暮らしでお金もないので見たこともない。今から見に行ってもおそらく理解もできない可能性が高い。宝塚の舞台を見たときに全く没入できなかったのを思い出すと、たぶん歌舞伎にも没入できないだろう。もうトシだからこのまま歌舞伎を知らないまま死ぬことになるだろう。

そこで、せめて有名な演目だけでもどんなお話なのか知りたいと思っていたところに素人にちょうど良さそうな本が出ている。橋本治作・岡田嘉夫絵の歌舞伎絵巻シリーズ(ポプラ社刊)である。いちおう児童書の絵本の形をとっているが、とても子供が読みたくなるとは思えない。どれもお話が複雑で長いのでえらく文章が多いのである。絵はメチャメチャに美しいので見ているだけでも眼福なのであるが。

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「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」「妹背山女庭訓」「国姓爺合戦」の5冊が出ている。いずれもタイトルだけはよく聞く作品である。「仮名手本忠臣蔵」などはおなじみのお話だからストーリーの見当はつく。菅原道真や義経、国姓爺などは歴史上の人物名だから手がかりがなくもないが、実はどんなお話なのか全然知らなかった。しかし「妹背山女庭訓」などはタイトルからは何の話やら全く見当がつかない。皆さん、知ってますか?

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とりあえず「妹背山女庭訓」を読んでみると、なんと1400年前頃の「大化の改新」をめぐる物語であった。古代もかなりの古代である。小学校の歴史でもお馴染みの事件。登場人物は天智天皇・中富鎌足・蘇我蝦夷・蘇我入鹿など古代日本の有名人物ばかり。ただし物語は史実とは全くかけ離れたファンタジーである。ご都合主義と勧善懲悪と魔術が織り成すムチャクチャなお話。ただし、それはリアリズムに毒された近代文学を読みなれた現代人の感想で、昔はどこの国だってこのスタイルが物語の王道だったのだろう。

ではこの本が面白いか?といえば疑問符がつく。児童向けの絵本の体裁をとっているから、語り口は「ですます調」で、原作にあっただろう古文のリズムはない。お話も骨格だけに削られているはず。難しい名前の人物がいきなり次々に登場するのも難物。岡田嘉夫の絵は大変華麗で江戸時代の錦絵をも凌駕せんばかりに美しい。しかし、少女マンガの決め絵みたいに意味不明の花や小鳥が人物を取り巻き、人物も全く歌舞伎役者の衣装で隈取。これがまったくストーリーの理解を助けるような挿絵ではない。結論的に言えば、読んでいて面白いとは、残念ながら言えない。たぶん歌舞伎に多少ともなじみのある人なら面白く読めるのかもしれないが。

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私の率直な感想は他の「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」についても全く同じ。義経千本桜は源平合戦後の義経と兄・頼朝との葛藤に滅びたはずの平家の残党が入り乱れる複雑な話。義経が奥州に逃れる前の一悶着。この絵本では表紙からしていかにも吉野山に桜が咲き乱れているが、実際はお話に一切桜は関係ないそうだ。

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菅原伝授手習鑑」は菅原道真がお習字の先生でもするのかと思ったら、全く異なり、菅原道真の大宰府左遷をめぐるお話。それも菅原道真が主役かというとそうでもなく、彼をとりまく敵味方の群像が入り乱れて争う。挿絵はどのお話も同工異曲と言っていいが、どれも間違いなく美しい。

この企画はいいんだが、どこかが間違った。無理に子供向けの体裁をとったのがいけなかったんではないか? この本は子供にとっても辛抱して読めるものだとは思えない。むしろ大人向けと割り切って、大人向けの文体にしたほうが良かったと思う。読み物の味わいは文体にもある。そりゃ、原作の古文の方が味わいがあるに決まっているが、そこを現代人にも楽しめる文体にするのが作者の腕の見せ所である。ところがである・・・・。アマゾンの購入者レビューを見ると、みなさんおしなべて高い評価をしておられ、お話もたいへん面白い、と言っておられるの。ということは私の鑑賞力の貧困なのだろうか?

芸術新潮の2012年7月号で作者の橋本治がこのシリーズを紹介し苦労談を語っている。岡田嘉夫作の絵を生かすには、文章を極力減らさねばならないが、これを削ることが一番の苦労だったという。「仮名手本忠臣蔵」でいえば原作を削りに削ってやっと原稿用紙60枚にしたという。原作中の心理描写はほとんどカットしたという。それでも絵を損ねないように文章をレイアウトするのに大変苦労した。最後には、どうせダレも文章なんか読みゃしないさ、と達観したという。それでも60枚あるんだから子供向け絵本としては異例に長い。

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江戸時代の娯楽である落語には、江戸の人々に基本教養であった歌舞伎が背景にあるという。「四段目」などでは子供も歌舞伎に夢中である。丁稚の定吉が「仮名手本忠臣蔵」の四段目を延々と語る場面が見せ場である。べつに「仮名手本忠臣蔵」を知らなくとも楽しめる話であるが、丁稚ですら知っている原作を知らない、というのは若干気になる。橋本治も忠臣蔵は誰でも知っているが「仮名手本忠臣蔵」を読んだ人はめったにいない、と言っている。歌舞伎でも全編が一挙に上演されることはない。ちなみに「仮名手本」とはイロハ四十七文字のかな文字から四十七士を暗示する表現なのだという。それも知らなかったなぁ。そこで、橋本は多くの人に名作歌舞伎の原作に親しんで欲しい、という願いからこの企画を立ち上げた。歌舞伎原作といいながら、実際には人形浄瑠璃の原作であるが。

源氏物語は次から次へと現代語訳が出る。この橋本治も「窯変 源氏物語」を出しているくらいだ。歌舞伎原作も原作の浄瑠璃本は現代人が読むにはハードルが高すぎるから、読みやすい形でいろいろ出て欲しい。物語を面白く、絵は理解の助けになるような本ならマンガでもいいのではないか? 橋本治は「日本文化のために買ってください!」と訴えている。その意気やよし。ちなみに私は図書館で借りて、自腹を
切らずに文句をつけてますが、
お金と興味ある方は是非買ってあげて下さい。宣伝のつもりで画像を掲載しています。







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Author:トトロのとなり
現在トトロのとなりの門川町に住む。
日豊地域での見聞を中心に徒然を記す。
お金がないので遠くには行けない。
お金がないのでグルメ記事はなし。

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