かぐや姫の物語

遅まきながら「かぐや姫の物語」を見に行った。先入観を持ちたくなかったので、新聞や雑誌の映画評やネット上にあふれるレビューは一切見ていない。

世界中の高畑ファンにとって長年、待ちに待った作品である。別にこの作品を待っていた訳ではなく、高畑作品ならなんでも良かったのであるが。結果的に「かぐや姫のものがたり」になってしまっただけ。私としては一度彼が企画した「子守唄」をモチーフにした作品が見てみたかった。その後、竹取物語がらみになると聞いたのが5年くらい前か。一時はかぐや姫が現代日本に降り立ち巻き起こす物語、とも聞いたことがある。鳥獣戯画みたいに全編を水墨画風に描くので悪戦苦闘している、という話もその頃聞いた。それがやっと日の目を見た。企画以来8年越しとか。

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私個人の感想を結論的に言うと、眼福の至り、と言うに尽きる。水墨画とまではいかないが、キャラクターの描線は筆のタッチのままで彩色は別に描画された輪郭線によっているから、普通の2Dアニメとはまるで雰囲気が異なる。背景も水彩の淡彩画そのもので塗り残しの余白が多い。ちょうど1999年の高畑作品「ホーホケキョとなりの山田くん」とよく似た雰囲気である。「山田くん」はCGで作られたがよく水彩画の雰囲気を出していた。美術監督が男鹿和雄だからこれ以上は望めない美術陣である。パンフレットで高畑氏が「これは虫と草の映画です」と言っているように、美しい四季の移ろいが丹念に描かれる。どの場面をとっても一枚絵として鑑賞に耐える。そこを楽しむだけでも十分ではないだろうか。

大きなイチョウの枯れ木が象徴的な木地師の里。
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意外にもストーリーは原作の竹取物語にかなり忠実である。そこに、山里で暮らした野性的な少女時代、初恋の人との交流、都に出てからの窮屈な暮らし、思い通りに生きられない葛藤が付与されて物語に膨らみを与える。いかに数奇な物語といえど、日本人ならだれでも結末を知っているから物語の展開に特に驚きはない。高畑氏自身が言うように「みんな読んだことがあるが、だれも面白いと思わないし、感動もしない物語」なのである。高畑氏はあえて物語を改変することはせず、かぐや姫の内面の葛藤を描くことによって物語に意味を与えたい・・・と言っている。実は率直に言って、そこらは大成功を収めた、とは思えなかった。そもそも高畑氏が力づくで人を泣かせよう、というスタンスではないので、まぁ、こんなものだろうとも思った。真っ暗な画面のエンディングロールの流れる中、二階堂和美の歌が流れるのを聞けば、しみじみとした気分になることはできる。

ところが、私は自分の鑑賞力があてにならないのを知っているので、数日後二度目を見に行ったのである。2時間17分という長丁場をときにはアクビをしながらその美しい画面を再び堪能し復習していただけなのに、最後には予期しなかった深い感動がジワジワと押し寄せてきた。涙の中でエンディングの二階堂和美の「いのちの記憶」を聞くことになった。高畑マジックである。「おもひでぽろぽろ」を思い出す。あの映画は、最後でアレッ?もう終わり?と物足りなく思うところでエンディングロールが都はるみの歌とともに流れ始める。ところがお話はそこからなのである。涙の感動はそのエンディングロールが終わる頃に訪れるのである。高畑さんも「かぐや姫のものがたり」の出来に満足しているようで、私も同意できる。


気づいたことを二つ三つ。全体の構成が大昔の東映動画のようにクラシックで懐かしさ横溢。今の映画は映画会社マークの後にすぐに物語の導入部があるパターンが多いが、これは昔の映画のようにオープニングにはタイトルが出て、動かない千代紙の背景に主要スタッフ名が出る。今、確認してみたら「おもひでぽろぽろ」も同様であった。物語の前半は山里での展開でやたらと小鳥や動物が出てくる。ディズニーの白雪姫やシンデレラのスタイル、あるいはそれを模倣した1960年代の東映動画スタイルの踏襲。東映動画でキャリアを積んだ高畑氏が昔を懐古しているのだろうか。

竹取物語は平安時代の作品だから時代設定は当然1000年も前である。それを時代考証するのは大変だろうが、随所にさもありなん、というような設定を見ることができる。竹取の翁が竹細工を作る様子はなかなか堂にいった手つきだし、となりの木地師がろくろ物を作る様子はホホウと感心する。貴族の着物の着こなしももっともらしい。最後に月からの使者からかぐや姫を奪還されるのを防ぐために武士たちが迎え撃つ場面がある。この場面は大昔の講談社絵本ととてもよく似ている。参考にしたのかもしれない。

下:昭和初期の講談社絵本から。絵は織田観潮。映画でもこれそっくりそのまま。
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普通の絵本の挿絵なら月からの使者は天女と決まっていそうだが、高畑版ではブツブツ頭のお釈迦様と思しきお姿である。音楽はえらく陽気だし(高畑氏は久石譲にサンバ調で、と指示したらしい)奇妙で滑稽な感を持った。しかしよく考えると、月の世界というのは実は無味乾燥な死後の世界であり、かぐや姫が月に帰るということは一時的に得た生の世界を後にするというこだから、仏様がお迎えに来るのは当然かもしれない。だからかぐや姫はあんなに悲しかったのだろう。二度目に見たときには仏頂面の無口な仏様に納得。

下:講談社絵本から。絵は織田観潮。映画ではウチワの下に天女ではなく仏様。ペガサスの馬車は映画でも全く同じ。
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ディズニーは有名な御伽話をアニメ化して、今や白雪姫やシンデレラを想起するのにディズニーアニメのキャラクターでしか思い浮かべることができないくらいにしてしまった。1937年のディズニーの白雪姫は世界初のアニメーション長編作品、それもカラー。その滑らかな動きとカラーの美しさだけで価値があった。愉快な小人たちや憎たらしい王女など印象的なキャラクターはあるが、ストーリーはさして面白くはない。そこいくと我が桃太郎や金太郎やかぐや姫にはそういう強烈な定番作品がなかった。さてディズニーに遅れること約80年、この「かぐや姫の物語」は名作ではあるが、世界的なスタンダードになれるのかどうかはあやしい。子供受けするディズニーと違い高尚すぎるだろう。

講談社絵本から。大伴大納言が筑紫に龍の球を取りに行く図。この場面は映画でもよく似た設定で、抑えた色彩、動きともため息が出るほど素晴らしい。
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高畑氏は今作でアニメーションという手法を一歩前に進めた、と自負しているようだ。筆のタッチそのままでキャラクターが動き回る、というのは短編ならともかくこんな長編の本格作品では見たことがない。そこらへんの技術的なところは素人にはどれだけスゴイことなのかよくわからない。制作費50億円というのが、いかに手間と人件費がかかったか、を語る指標である。たぶん今の興行成績では元がとれないんではないか。パンフレットの中で鈴木敏夫氏が、なぜとっくに亡くなっている氏家齊一郎氏(元日本テレビ会長)が制作者と名を挙げられているかを語っている。氏家氏は個人的に高畑氏の大ファンで死ぬ前にもう一本高畑作品を見ることを願っていた。だからこの作品の完成には採算を度外視して後継者の大久保好男氏(現日テレ会長)ともども莫大な出費を惜しまなかったという。鈴木氏はいい作品にはいいパトロンが必須だ、と書いている。この作品は現代日本の動画の業の集大成ともいうべきもので、昔の源氏物語絵巻や平治物語絵巻なみの国宝になってもおかしくはないのである。

12月20日にアートオブジブリシリーズの「アートオブかぐや姫の物語」が発売される。予約して楽しみに待っているところである。






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映画を楽しみにしていますから、残念ながら本文は読みません。観たら読みます。
さてどこの映画館でご覧になりました? 延岡ピカデリー?
あそこは新しくなったのでしょうか?
駐車場は河川敷?
昔は同時上映が沢山有って丸一日映画館にいたものです、今はロードショーだけですね。

ミワ君へ

今は昔の名前「延岡シネマ」になっています。ガラガラの客席で頑張っています。ありがたいことです。平日の午前に行くと、私一人だけってこともあります。駐車場は映画館の近所に10台分くらいしかありません。市役所に停めても5分でいけます。しかし、どうせ見るなら宮崎セントラルみたいな映写条件のいいところで見たいですね。

Happy new year 2015 :)
かぐや姫の物語
Kaguya-hime showed in my country last Christmas (2014). I read the webboards, many people enjoy this movie and it got high-positive comments from the viewers.
For me, I like Takahata's version and already watch it 2 times.
After seeing movie, I have some questions. Can you please reply me email?
Thank you :)

To durianguan

かぐや姫の件--about kaguya-hime

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トトロのとなり

Author:トトロのとなり
現在トトロのとなりの門川町に住む。
日豊地域での見聞を中心に徒然を記す。
お金がないので遠くには行けない。
お金がないのでグルメ記事はなし。

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